食中毒の種類と分類
食中毒は、原因となる物質から「微生物」「自然毒」「化学物質」「寄生虫」に分類されます。さらに微生物食中毒は「細菌性」と「ウイルス性」に細分することができます。日本国内で発生する食中毒の大部分は、微生物によるものが最も多いです。最新の食中毒統計を見ると細菌性食中毒では「カンピロバクター」、「ノロウイルス」が多いのが特徴です。近年、追加された寄生虫食中毒も「アニサキス」による食中毒が増えていますので注意が必要です。食中毒の分類をイメージにすると下図の様になります。
食中毒は食品衛生法第58条で定義
食中毒の定義は、食品衛生法第58条に「食品、添加物、器具若しくは容器包装に起因した症状を発症した患者若しくはその疑いのある者」とあり、診断した医師は食品衛生法施行規則に基づいて必要事項の届出を提出するよう定められています。また、赤痢やコレラは食中毒と区別されてきましたが、1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症新法)において、病因物質の種別にかかわらず飲食に起因する健康障害は食中毒として取り扱われる事となっています。原因物質は、細菌やウイルスの感染が最も多く、化学物質や有毒成分を含む動植物によるものがあります。また、2012年12月の食品衛生法施行規則の一部が改正されアニサキスが食中毒の病因物質として新たに追加されました。アニサキスの他には、クドア、サルコシスティス、クリプトスポリジウムなどの寄生虫も追加されました。最近、スーパーでクドアやアニサキスが寄生する刺身類が原因で発生しています。
食中毒の発生状況と代表的な原因物質
発生件数および患者数が最も多い食中毒はノロウイルスです。従来より流行している細菌によるものは夏場に多く発生していましたが、ノロウイルスは秋から冬にかけ流行します。以前は、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオなどの発生が多かったですが、最近ではノロウイルス、カンピロバクター、サルモネラ菌が上位を占めています。これら3つで全体の食中毒の発生件数の約8割を占め特に注意しなければいけない原因物質です。最近では、衛生意識が高まり温度管理などの徹底などにより年々発生件数が減少傾向ですが、ウイルスによる性は増加傾向です。病原体の種類が細菌とウイルスと異なる為、増殖や感染のメカニズムは異なり原因物質に合わせた対策が重要になります。さらに食中毒の原因物質について知りたい方は食中毒の原因物質一覧を参照してください。
ノロウイルス
ノロウイルス食中毒は、発生件数、発生患者数ともに最も多く全体の約3割を占めています。多くの原因物質が夏場に発生しますが、ノロウイルスは冬場に流行するのが特徴です。ノロウイルスは、非常に感染力が強く、施設で発生すると短時間で感染が拡大し、1件あたりの患者数は非常に多いのが特徴です。体内に侵入すると腸内の粘膜細胞に侵入し、自身の遺伝子情報を使い増殖を繰り返します。そして細胞内がノロウイルスに満たされると細胞膜が破裂し、新たな腸内細胞に侵入し増殖を繰り返します。そのため、増殖が繰り返されると腸の粘膜細胞は破壊され胃腸の機能は低下し下痢の症状が現れます。ノロウイルス食中毒による症状は激しい下痢や嘔吐の症状が数日続きます。どちらも1日に何度も繰り返し非常に激しいのが特徴です。また、感染した患者さんの下痢や嘔吐の汚物には、強い感染力をもつノロウイルスが大量に含まれており、介助や汚物の処理する際に二次感染しない様に注意が必要です。ノロウイルスによる死亡事例はほぼ発生しておらず、重症化する事は少ないです。しかし、体力の弱い乳幼児や高齢者がノロウイルスに感染になると、体内の水分や電解質が枯渇する脱水や汚物が器官に入る誤嚥性肺炎や窒息になることもあり注意が必要です。
腸管出血性大腸菌O-157
病原性大腸菌による食中毒の中にo-157食中毒などがあり感染すると血便などの症状が現れます。体内に侵入すると体内で増殖しながら非常に毒性が強いベロ毒素を産生します。この毒素は、腎臓の機能を低下させHUS(溶血性尿毒症症候群)を起し、腎不全や最悪の場合は亡くなる事例も多く発生しています。血便の症状がみられる場合にはHUSを疑い早めに病院へ行くようにしましょう。大腸菌は、私たちの腸内にも存在している非常に身近な細菌で非常に多くの種類がありす。しかし、大腸菌の一部が突然変異などにより性質が変化し、感染すると下痢や腹痛などの症状が現れるものを病原性大腸菌といいます。病原性大腸菌の中でも感染すると血便などの症状が現れるものを腸管出血性大腸菌と呼ばれています。腸管出血性大腸菌で最も有名なのがo-157です。それ以外にもO157、O26、O111などがあります。大腸菌は、表面にある抗原に基づいて細かく分類されており、O抗原は外膜のリポ多糖由来のもので、H抗原はべん毛由来のものです。
o-157は、主に牛肉の腸内に存在しており、一部の牛肉はo-157が血液を介して肝臓や肉などの組織を汚染していることが確認されています。そのため、牛肉の生食や加熱不十分が原因でo発生していると考えられています。この事態を重く見た厚生労働省は、レバー刺の提供を禁止し、ユッケも厳格な調理手順でしか提供できなくしました。この効果もありo-157食中毒は減少傾向であります。しかし、毎年数件から10数件発生しており、平成23年4月に発生したフーズ・フォーラス(富山県)では181名が発症し5名が死亡しました。また、平成26年7月に静岡県安倍川の花火大会の露店で販売されていた「冷やしきゅうり」が原因で患者数510名の感染者が発生しました。最終的な原因は、わかりませんでしたが、流通や販売する過程で二次汚染によって発生したと考えられます。また、千葉県や東京都の高齢者施設でもきゅうりを使用した料理でo-157食中毒が発生し死亡するケースが発生しています。特に抵抗力が弱い子供や高齢者の食事では、野菜もしっかり洗浄し、必要ならば消毒することもお薦めです。
カンピロバクター
カンピロバクター食中毒は、主に鶏肉を生食もしくは加熱不十分で食べることで発生しています。ある研究機関の調査報告によると流通している4割の鶏肉がカンピロバクターに汚染しているとのことです。細菌学的な特徴は、グラム陰性桿菌で微好気性細菌で、菌が増殖するには5~10%程度の炭酸ガスと酸素濃度を必要としますが、低温下で保存した水や食品中では大気中でも比較的長期間生存することができます。近年、細菌による食中毒は減少傾向であるが、ノロウイルスの次に多い原因物質で注意が必用です。カンピロバクターが増加した要因としては、環境汚染により鶏肉への汚染が拡大し、九州などで食べられる「鳥刺し」「鳥のタタキ(鳥わさ)」などの料理が首都圏などでも頻繁に食べられる様になった事も背景にあるかと思われます。そのため厚生労働省では、牛や豚と同様に鶏肉の生食を禁止すべきか検討をしていますが、郷土料理でもある九州地方の関係者からは反対する意見もあり最終的な結論が出るには時間がかかるかと思われます。
ウェルシュ菌
ウェルシュ菌食中毒は、給食など大量に調理する施設で発生しており「給食病」とも呼ばれています。細菌学的な特徴は、グラム陽性非運動性偏性嫌気性であり、生体内または血清添加培地で増殖した場合、莢膜を形成します。ウエルシュ菌が最も増殖する至適温度は43から47度で、37℃で最も多くの毒素を産生します。ウェルシュ菌は、私たちの身近な存在している細菌で色々な食品が汚染されています。しかし、熱には弱い性質があり、十分な加熱をすることで予防することが可能です。例えば、シチューやカレーなどの煮込み料理を大量調理をした際、鍋の中心部まで十分に加熱せず、加熱後に常温放置することで生き残った菌が増殖し食中毒の原因となります。そのため予防には、十分な加熱し殺菌、過熱後すぐに食べない食品は急速冷却して冷蔵庫へ保管、酸素を嫌う菌でもあり空気を入れながらかきまぜ加熱すること予防に有効な方法です。一度、菌が産生した毒素は、再加熱しても無毒化することができません。また、菌が増殖すると味がおかしくなりますので、食事提供前に味見をすることも予防では有効な方法の1つであります。
潜伏期間は異なる
国内で発生している代表的な食中毒の原因物質を一覧にまとめたページを作成しました。食中毒は、私たちにとって有害な微生物、化学物質、寄生虫などを誤って食品と一緒に摂取することで起きる下痢、嘔吐、腹痛などの胃腸炎症状などの総称になります。食中毒の症状は、発熱の有無など原因物質によって異なります。また、有害な原因物質を摂取してから症状が現れる潜伏期間も異なります。細菌やウイルスなどによる食中毒の症状は比較的遅く、自然毒や化学物質による食中毒は比較的短時間に症状が現れる傾向があります。その為、症状や食中毒の原因となる食事から原因物質を推測することができ、症状の対処方法や治療の参考になります。