カンピロバクターの細菌学的な特徴
カンピロバクターは、グラム陰性でらせん状に湾曲した形態を示す真正細菌の一属の総称です。菌体は、長さ0.5 - 5µm、幅0.2 - 0.8µm程度の桿状であるが、全体がらせん状に1 - 2回ねじれたらせん菌であり、顕微鏡下ではS字状、またはカモメ状に観察されます。芽胞を形成せず、菌体の一端または両端に一本の極鞭毛を持ち、運動性があります。カンピロバクターは、微好気性または嫌気性で、酸素濃度 3 - 15% 及び 30 - 37℃の条件で増殖します。菌種によっては二酸化炭素や水素ガスを発育に必要とするものがあるが、至適条件は菌株により異なります。乾燥には弱いです。カンピロバクターは一般に動物の腸管、生殖器、口腔などに常在すし、現在、17菌種 6亜種 3生物型を確認されています。カンピロバクターの中で食中毒を引き起こすものとして C. jejuni、 C. coliなどがあり詳しくは以下にまとめてあります。
- カンピロバクター・ジェジュニ (Campylobacter jejuni)長さ0.5 - 5µm、幅0.2 - 0.4µmカンピロバクター・コリと共に、ヒトに胃腸炎の症状を引き起こす。ヒトに感染するカンピロバクターの大半がこれである。続発的にギラン・バレー症候群などの症状を起こすことがある。家畜、野鳥、野生動物、ヒトを宿主とする。
- カンピロバクター・コリ (Campylobacter coli)カンピロバクター・ジェジュニと同様の症状を引き起こす。ジェジュニと同じく、ヒトに感染して症状を引き起こすが、患者の糞便から検出されるのはまれである。家畜、野鳥、サル、ヒトを宿主とする。
- カンピロバクター・フェタス (Campylobacter fetus)ヒトに感染すると、敗血症や心内膜炎、関節炎や髄膜炎を引き起こす。ウシ、ヒツジ、カメ、ヒトを宿主とする。
食中毒は焼き鳥店など鶏肉を扱う店で多く発生
細菌性食中毒の多くは、減少傾向でありますが、カンピロバクター食中毒は、事件数、患者数ともに増加傾向を示しており特に注意する必要があります。カンピロバクター食中毒に注意しなければいけない時期は、発生がピークとなる5~7月ですが、それ以外の時期も発生しています。カンピロバクターは鶏肉に汚染されていることが多く、鶏肉を生食で食べる九州地方で食中毒の発生件数が高いです。また、飲食店でも焼き鳥の加熱不十分によりカンピロバクター食中毒が発生するケースが目立ちます。英国の調査によると市場に流通している約4割以上の鶏肉がカンピロバクターに汚染されている報告もあります。厚生労働省もカンピロバクター食中毒が多発している点を重く受け止め鶏肉の生食について禁止するか検討しているとのことです。
主な症状は、下痢・嘔吐・腹痛
カンピロバクター食中毒は、原因菌であるカンピロバクターに汚染された飲食物を摂取することで、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛などの初期症状が現れ、次いで吐き気、腹痛の症状、さらに下痢などの症状が現れます。カンピロバクターに感染して症状が現れる潜伏期間は、2日から7日と言われています。カンピロバクター食中毒の主症状の1つである下痢ですが、多くは水様便ですが、粘液や血便もあり(小児では血便を伴うことが多い)、腸管出血性大腸菌o157の症状に似ており素人が見分けることは難しいです。また、他にも38~39℃の発熱があり、腸炎のほかに敗血症や関節炎、髄膜炎などの症状も現れることもあります。カンピロバクター以外の食中毒の可能性もある場合は、症状から食中毒を調べることができます。詳しくは、「食中毒の症状と種類」を参照してください。
カンピロバクター食中毒の検査
カンピロバクター食中毒を疑う症状がある場合は検便を実施します。まず、検便を行うため便を採取して、細菌を増殖させる(培養する)ために検査機関に送ります。しかし、カンピロバクターの培養には数日間かかるため検査せず症状から原因物質を特定し治療方針を決める事もあります。医師は通常、下痢を引き起こした細菌の種類を知らなくても症状から有効な治療を行うことができます。カンピロバクターなど細菌が同定された場合は、どの抗生物質が有効かを確認するための検査(感受性試験)を実施します。
治療は、抗菌薬の投与と脱水などの対症療法が中心
下痢や嘔吐の症状がカンピロバクターによるものか診断する為に抗菌薬投与前に便の細菌検査を行います。 多くの食中毒による症状は、病院に行かず、自宅で安静にしながら脱水症状にならない様に水分補給すれば自然に回復します。しかし、高齢者や乳幼児は抵抗力が弱く、重症化することもありますので注意が必要です。特に激しい下痢や嘔吐により体内の水分や電解質が枯渇する脱水には注意しましょう。その為、水分が摂取できる時に無理せず補給する様にしましょう。脱水の症状が重たくなったり、自分で摂取することが出来ない場合には、輸液(点滴)をすることもあります。症状が非常に辛く、抵抗力が無い患者さんには、投薬など化学療法を行う場合があります。カンピロバクター食中毒の症状を治療する方法は、、エリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質、そしてホスホマイシンを第一選択薬として使用します。セフェム系抗生物質に対しては多くの菌株が自然耐性を示し、ニューキノロン系抗生物質に対しては耐性菌を誘導す場合があり、耐性菌も増加しているので注意が必要です。軽度な症状の場合は、自宅で安静することで回復します。詳しくは、「食中毒を病院に行かずに治したい」で確認してください。
カンピロバクター食中毒は鶏肉の加熱不足が原因
厚生労働省によるとカンピロバクター食中毒における主な推定原因食品又は感染源として、鶏肉関連調理食品および調理過程中の加熱不足や取扱い不備による二次汚染等が強く指摘しています。カンピロバクター食中毒のうち、原因食品として鶏肉が疑われるもの(鶏レバーやささみなどの刺身、鶏のタタキ、鶏わさなどの半生製品、加熱不足の調理品など)が60件、牛生レバーが疑われるものが11件認められています。また、欧米におけるカンピロバクター食中毒の原因食品として生乳の飲用による事例も多く発生していますが、我が国では牛乳は加熱殺菌されて流通されており、当該食品による発生例はみられていません。この他、我が国では、不十分な殺菌による井戸水、湧水及び簡易水道水を感染源とした水系感染事例が発生しています。詳しくは、また、食中毒の原因と種類(一覧)で確認してください。
カンピロバクターは鶏肉の汚染が非常に高い
市販されている鶏肉についてカンピロバクター汚染調査を行ったところ、鶏レバー56検体中37検体(66.1%)、砂肝9検体中6検体(66.7%)、鶏肉9検体中9検体(100%)からカンピロバクター・ジェジュニが分離されました。また、大規模食鳥処理場併設食鳥処理施設におけるカット鶏肉についてのカンピロバクター汚染調査の結果は、高い率で陽性でした。他の研究チームの報告でも鶏肉の汚染率は20~40%と高い感染率が報告されています。これは農場や食鳥処理場による鶏肉の汚染率のばらつきのほか、検査法による検出率のばらつきが反映されているものと思われます。仕入れた食材がカンピロバクターに汚染されている可能性も高いので食中毒にならない様に注意しましょう。また、健康な牛の肝臓及び胆汁中のカンピロバクター汚染調査を行ったところ、胆嚢内胆汁236検体中60検体(25.4%)、胆管内胆汁142検体中31検体(21.8%)、肝臓では236検体中27検体(11.4%)からカンピロバクターが検出されました。
カンピロバクター食中毒の予防
カンピロバクターは、食材のなかでは鶏肉や牛レバーから最も高率に検出されるので生あるいは加熱不十分の鶏肉や内臓肉を食べることは食中毒予防の観点から控えるべきだと思います。カンピロバクターは熱や乾燥に弱いので、調理器具は使用後によく洗浄し、熱湯消毒して乾燥が非常に重要です。また、カンピロバクターの汚染が多い食肉からサラダなどへの二次汚染を防ぐために、生肉を扱う調理器具と調理後の料理を扱う器具は区別すること、生肉を扱ったあとは手指を十分に洗浄することも重要です。また、カンピロバクターの予防では冷蔵庫内で、生の食肉と他の食品との接触を避けることも重要です。井戸水など未殺菌の飲料水を飲まないこと、小児ではイヌやネコなどの保菌動物への接触で感染することもあるので、便などに触らないなどの注意が必要です。一般的な食中毒の予防方法について説明しています。詳しくは、「食中毒の予防」で確認してください。
- 食肉などを冷蔵庫に保存するときは、他の食品と分ける。
- 食肉などは十分に加熱する。
- 飲料水は、煮沸するなど、完全に滅菌してから飲む。
- 調理の際は、必ず手を洗う
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