ノロウイルスの特徴
ノロウイルス食中毒の最大な特徴は、病原体がウイルスが原因物質である点です。食中毒の多くは、増殖に適した温度と湿度の環境で食品に付着した食中毒菌が増殖したものを摂取する事で現れます。しかし、ノロウイルスは、食中毒菌が好む温度や湿度がある環境では増殖せず、私たちの体内でしか増殖する事ができません。その為、強い感染力があるノロウイルスに感染しない為にも少量でも体内に取り込まない事が予防の基本となります。食中毒の予防は、原因物質の種類と特性を知った対策をする必要があります。また、ノロウイルスは、細胞の細胞膜にあたるエンベロープを持たずRNA(遺伝子情報)があり、腸管出血性大腸菌O157やインフルエンザなどの消毒で有効なアルコールはノロウイルスを消毒するのに効果がありません。一方、十分に加熱することでノロウイルスを不活化(死滅)することがわかっています。厚生労働省もガイドラインとして、食品の中心温度85度から90度で90秒以上の加熱が推奨されています。また、次亜塩素酸ナトリウムに弱い性質があり、100ppmで10分、200ppmで5分間でノロウイルスを消毒(不活化)させる効果がある事がわかっており食中毒予防の効果も期待できます。
(ノロウイルスの病原体 電子顕微鏡写真)
流行する時期は秋から冬
ノロウイルス食中毒は気温と湿度が下がる10月頃から3月頃のまで爆発的に流行します。以前は、ノロウイルスは冬場に流行し夏場にはあまり発生しないと言われていましたが、近年、夏場でも確認されてます。また、原因は、牡蠣の生食だと以前は言われていました。しかし、近年では、生牡蠣以外の食材でも多く発生しています。必ずしも牡蠣の生食が原因とは言えません。(しかし、牡蠣の生食には注意する必要があります。)ノロウイルス食中毒の予防で重要なのは二次感染の予防です。二次感染とは、ノロウイルス患者さんから病原体をもらわない事です。その為には、手洗いの徹底が重要でマスクの着用もお勧めです。
静岡県浜松市で発生した学校給食用のパンによるノロウイルス食中毒事件では、十分に加熱されたパンが原因食品となり、患者数も多く記憶に残っている方も多いと思います。原因は、学校給食のみ出来上がりのパンに焦げが無いか確認した工程で、パンを検品するスタッフがノロウイルスに感染し、検品スタッフの手指からパンに付着したことが原因と判明しました。しかし、検品スタッフはトイレの後の手洗い、検品時に手袋を着用していましたが、手洗いの不十分、手袋着用時に素手で手袋の外側に触れたことで汚染が拡大した可能性が高いです。食材そのものが汚染されるケースよりも調理従事者など食品に触れるヒトが汚染を拡大したことで食品を汚染し食中毒を引き起こすことが多く、従来の食中毒のイメージよりも伝染病のイメージに近いと思ったほうがよいです。
症状は激しい下痢や嘔吐
ノロウイルスによる食中毒は、1日から2日の潜伏期間を経て発熱、そして、激しい下痢、嘔吐があらわれます。しかし、年齢や体質によって食中毒の症状は若干ことなる報告もあります。子供は嘔吐が多く、成人が下痢が多いとのことです。しかし、成人でも嘔吐、子供でも下痢があらわれますので、症状の有無に関わらず激しい下痢や嘔吐があった場合には、ノロウイルスを疑った方がよいでしょう。下痢や嘔吐の症状は、体内に侵入したノロウイルスが、小腸の粘膜(上皮細胞)に入り込み自身の遺伝子情報(RNA)を使い増殖を繰り返します。細胞内でノロウイルスが増殖を繰り返すことで上皮細胞の細胞壁が耐えられなくなり、細胞壁が破裂し腸内で飛散し、新たな小腸上皮細胞に入り増殖と細胞の破壊を繰り返します。このようにして小腸粘膜の機能が低下し下痢や嘔吐が少々があらわれると考えられております。
診断と治療方法
病院でノロウイルス食中毒と診断されても治す有効な薬はなく、脱水症状を緩和するための解消療法=輸液(点滴)を行うのが中心です。その為、治まるまでの間、1日に何度も下痢や嘔吐を繰り返さなければいけません。しかし、ノロウイルス食中毒の患者さんの多くが激しい下痢や嘔吐を繰り返すことで、体内で増殖したノロウイルスを体外に排出されることで徐々に回復します。下痢や嘔吐が辛いからと言って市販されている吐き気止めや止瀉薬(下痢止め薬)などを服用することは絶対にお止めください。下痢や嘔吐が一時的に緩和しますが、体内で増殖したノロウイルスが排出されず症状が長引いたり悪化する場合もあります。ノロウイルス食中毒は、数日から10日程度で回復する事が多く、後遺症は少なくいです。しかし、乳児や高齢者がノロウイルス食中毒になった時は脱水症状や誤嚥性肺炎に注意する必要がありますので注意が必要です。以下のページもお勧めです ノロウイルスによる感染と予防方法
病院での検査
寒い時期に何度も繰り返す激しい下痢や嘔吐が現われた時は、ノロウイルス食中毒を疑いましょう。病院で症状を説明し詳しい検査することもできます。しかし、多くの病院では、いくつかの質問に答えただけで診断する医師もいます。医師が検査をせず胃腸炎などと診断する理由には、一定の条件を満たさないとノロウイルスの検査費用が健康保険の適用にならない為です。医師も患者さんの経済的な負担も考慮して検査せず診断しています。検査する時に保険の適用になるための条件は、臓器移植、免疫抑制剤投与中、悪性腫瘍などの患者さんの検査に限られております。それでも希望される方は、自費ならばできます。
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