ボツリヌス菌の特徴 強い毒素を産生
ボツリヌス菌を微生物学的に分類するとクロストリジウム属の細菌であり、グラム陽性の大桿菌および偏性嫌気性菌に分類されます。ごくごく普通に土の中にボツリヌス菌は芽胞の形で広く存在しているため、土の中にいる殺人鬼と海外では呼ばれています。また、ボツリヌス菌は、酸素を嫌う嫌気性細菌であるためびん詰、缶詰、真空包装食品など酸素が含まれない食品中で増殖しながら強い毒素をつくり、熱に強い芽胞を作ることから長時間煮沸しても死滅せず、致死率の高い恐ろしい細菌として知られています。ボツリヌス菌は、A型からG型まで7つの種類が存在していることがわかっており、我々ヒトがボツリヌス菌による中毒症状を起すのは、A型、B型、E型、F型の4種類があります。A型はアメリカで多く発生し、日本ではE型が多く報告されています。また、A型とB型は、芽胞として土壌中に分布し、E型は海底や湖沼に分布しています。ボツリヌス菌が産生する毒素の致死量は体重70kgのヒトでA型毒素0.7〜0.9μgと言われており、毒素1gで100万人を致死させる力があると言われています。一般的に強い毒だと言われている青酸カリでも1gで致死させる力は5人ですので,ボツリヌス菌の毒素が猛毒であることが理解できるかと思います。自然界に存在する毒素としては最も強力な細菌と言われています。ボツリヌス菌は、世界中に分布し、世界各国で食中毒が発生しています。この菌の特徴は、芽胞は熱や消毒薬にも強い抵抗力をしめします。食品だけでなく、8か月以下の乳児の腸の中でも増殖し死亡したケースが報告されていますので、小さい子供にハチミツなどを与えるのは避ける様しましょう。
ボツリヌス菌による食中毒の発生時期
ボツリヌス菌は、細菌性食中毒とは異なり、高温多湿の環境で発生する訳ではなく一年を通じて発生しています。国内で発生した件数も多くなく、季節と発生件数の関係について詳しくわからないです。過去、国内で発生したボツリヌス菌による食中毒は、井戸水(宮城/2006年9月)、アユのいずし(岩手/2007年4月)、不明(千葉/2010年12月)、あずきばっとう(鳥取/2012年3月)、ハチミツ(東京/2017年2月)などがありますが、原因の食材も季節もバラバラとなっています。このことからボツリヌス菌による食中毒と季節との関連性は低いと考えられています。
症状は下痢や嘔吐など胃腸炎症状と神経症状
ボツリヌス菌による食中毒の症状は、潜伏期間である18〜36時間後に突然現れることが多いです。症状は、悪心,嘔吐,腹部痙攣,下痢がしばしば神経症状に先行してあらわれます。特に神経症状に特徴があり、両側対称性や脳神経に始まり下行性の脱力および麻痺がそれに続くのが特徴です。一般的なボツリヌス菌による食中毒の初期症状としては,口渇,複視,下垂,調節不能,瞳孔反射の減衰または完全な喪失などがあります。延髄麻痺の症状(例,構音障害,嚥下障害,発声障害,弛緩性の顔の表情)が現れることもあります。さらに嚥下障害は吸引性肺炎を来すことがあり、呼吸筋ならびに四肢および体幹の筋肉においては,衰弱が下降性に進行します。知覚障害は認められず,意識は通常清明なままで、発熱を欠き,脈拍は併発感染がなければ正常または緩徐を維持します。ボツリヌス菌が産生した毒素による便秘の症状は、神経障害の発現後によくみられます。また、ボツリヌス菌による食中毒の主な合併症としては,横隔膜麻痺および肺感染に起因する呼吸不全などがあります。他の食中毒の可能性もある場合は、症状から食中毒を調べることができます。詳しくは、「食中毒の症状と種類」を参照してください。
乳児ボツリヌス菌症に注意を!
乳児ボツリヌス菌症では,症例の90%において初期に便秘がみられ,次に脳神経に始まり末梢神経および呼吸筋へと進行する神経筋麻痺が起こります。また、ボツリヌス菌による中毒症状で脳神経障害が典型例で眼瞼下垂,外眼筋麻痺,弱い啼泣,弱い吸引,咽頭反射の減少,口内分泌物の貯留,無表情などがあります。重症の場合には、軽度の嗜眠および緩慢な哺乳から重度の緊張低下および呼吸不全まで様々です。乳児ボツリヌス菌症のリスクが高いために乳幼児にはハチミツを与えないように注意が必要です。最近では、2017年2月に東京都内の家庭で発生し乳児が亡くなっています。
ボツリヌス菌の検査方法
ボツリヌス菌による中毒の症状は、ギラン-バレー症候群,灰白髄炎,脳卒中,重症筋無力症,ダニ麻痺症,ならびにクラーレおよびベラドンナアルカロイドに起因する中毒と混同されることがあります。ほどんどの症例において,筋電図検査は高頻度反復刺激に対する特徴的な増強反応を示します。そのため,神経筋障害のパターンおよび感染源の可能性のある食物の摂取が重要な診断の手がかりとなります。2人以上の患者が同時にボツリヌス菌による食中毒の症状を発症した時には、共通して食べた食品を絞り込むことで原因を早く特定することができます。また、血清中もしくは糞便中のボツリヌス菌や毒素の確認により確定します。創傷性ボツリヌス菌では,血清中の毒素の検出または創傷の嫌気的培養による菌の分離が確定診断となります。乳児ボツリヌス菌症は,敗血症,先天性筋ジストロフィ,脊髄性筋萎縮症,甲状腺機能低下,良性の先天性緊張低下と混同されることがあります。
治療方法
ボツリヌス菌による中毒症状で最も注意しなければいけないのが,呼吸障害とその合併症です。進行性麻痺は,患者の肺活量が減少するにつれ,呼吸困難の徴候をみえにくくなります。また、呼吸障害には,挿管および機械的人工換気がいつでも利用可能なICUにおける管理が必要です。このような支持療法の改善により,ボツリヌス食中毒による死亡率は10%未満に減少しています。最近では、経鼻胃管挿管が栄養補給法として選択され,それによりカロリーおよび水分調整が容易となり腸の蠕動を刺激してボツリヌス菌を腸から排除することもできています。この方法は経静脈栄養に固有の感染および血管の合併症の可能性を回避します。軽度なボツリヌス菌による食中毒の症状の場合でも、自宅で安静することで回復を期待するのは厳しいです。早めに病院に行き医師の診察を受ける様にしてください。詳しくは、「食中毒を病院に行かずに治したい」で確認してください。
加熱殺菌の不十分が原因
酸素のない状態を好むため、 ボツリヌス菌による食中毒は、ビン詰、 缶詰、容器包装詰め食品、保存食品(ビン詰、缶詰は特に自家製のもの)などで発生しています。 国内では、北海道や東北地方の特産である魚の発酵食品“いずし”によるボツリヌス菌食中毒が、1997年頃までは報告されていましたが、最近では、 自家製の“いずし”がほとんど作られなくなり“いずし”による報告も少なくなりました。代わって、容器包装詰め食品(特に、レトルトに類似しているが、120℃4分の加熱処理がなされていないもの)、ビン詰め、 自家製の缶詰による報告があります。容器包装詰め食品の中でボツリヌス菌が増殖すると、容器は膨張し、開封すると異臭がする場合があります。乳児ボツリヌス症の原因食品として、以前から蜂蜜が言われています。1987年10月には、当時の厚生省が「ボツリヌス菌による食中毒予防の為に1歳未満の乳児には蜂蜜を与えないよう」 通知を出して以降、蜂蜜を原因とする事例は減少しました。蜂蜜以外、原因食品が確認された事例はほとんどありません。詳しくは、また、食中毒の原因と種類(一覧)で確認してください。
ボツリヌス菌による食中毒の予防
ボツリヌス菌の芽胞は土壌に広く分布しているため、 食品原材料の汚染防止は極めて困難です。食中毒の予防は、ボツリヌス菌の増殖を抑えることが最も重要です。 一般的な食中毒の予防方法と同じです。詳しくは、「食中毒の予防」で確認してください。
- .容器包装詰加圧加熱殺菌食品(レトルトパウチ食品)や大部分の缶詰は、 120℃4分間以上の加熱が行われているので、常温保存可能ですが、これとまぎらわしい形態の食品も流通しています。「食品を気密性のある容器に入れ、 密封した後、加圧加熱殺菌」という表示の無い食品、あるいは「要冷蔵」「10℃以下で保存してください」などの表示のある場合は、必ず冷蔵保存して 期限内に消費してください。
- 真空パックや缶詰が膨張していたり、食品に異臭(酪酸臭)があるときにはボツリヌス菌や他の細菌が増殖している可能性があるので絶対に食べないでください。
- ボツリヌス菌は熱に強い芽胞を作るため、120℃4分間(あるいは100℃6時間)以上の加熱をしなければ完全に死滅しません。そのため、 家庭で缶詰、真空パック、びん詰、「いずし」などをつくる場合には、原材料を十分に洗浄し、加熱殺菌の温度や保存の方法に十分注意しないと危険です。作った食品の保存は、3℃未満で冷蔵又はマイナス18℃以下で冷凍しましょう。
- 乳児ボツリヌス症の予防のため、1歳未満の乳児には、ボツリヌス菌の芽胞に汚染される可能性のある食品(蜂蜜等)を食べさせるのは避けてください。
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